奈良の唐招提寺に参拝する際に一読するのがお勧めの本。
日本の様々な分野に大きな貢献をもたらした鑑真の来日の苦労を描いた名作。
この本を読むと鑑真の生涯に感銘を受けざるを得ないが、同時に当時、危険を冒して航海した遣唐使や留学生、留学僧にも感銘を受ける。
奈良時代や遣唐使について理解が深まり、奈良の旅を充実させてくれる本。
本の紹介
天宝12年(753年)の鑑真の渡日を舞台に、五人の日本人留学僧を描いた本。
物語の初めの方では遣唐使の海を渡る怖さが書かれている。
風向きが変われば沖や別の場所に流され漂流したり座礁し、海が荒れれば船は木の葉のように波に遊ばれる。
激しい船酔いに苦しみ、いつ沈むか分からない恐怖に身を置き、ただただひたすらに海が静まるのを待つ渡航者たち。
明かりのない暗闇の中、暴風雨の音と船内に入ってくる海水の音を聞き嵐が過ぎ去るのを待つ。
そうした航海を3ヶ月もかけ、ようやく唐の地に足を着く一行。
その経験は留学僧に、仏教を学ぶ意味とは一体何なのかと、大きな疑問を投げかける。
帰りも無事に戻れる保証はどこにもないのに、自分は何のために学ぶのか。
海の中に沈むためにいたずらに知識をかき集めるのか。
そんな至極当然の問いを各々が感じ、彼らは自分なりの答えを見いだしていく様子が描かれている。
それは留学僧だけでなく遣唐使船に乗った留学生や役人も同様。
日本に必要な法や知識、技術を得ることが命がけで、それに対して各々が自分なりに葛藤したことを、この本は教えてくれる。
後半では鑑真一行が漂流した異国の地で命を繋いでいく様子が描かれている。
残念ならが詳細がなく読み取らないといけないが、豊富な知識を伝えることで異宗教の現地の者から迫害されないように、自身の身を守ったことが分かる。
鑑真一行は行く先々で寺を建て、戒を授け、人をさとしたとあるが、おそらく建築や薬に関する知識も広めたと思われる。
あらすじ
天平四年(732年)、大安寺の僧普照(ふしょう)は未だ戒律の具(そな)わっていない日本に伝戒の師を招くために唐に渡る。
激しい暴風雨や波で大きく揺れる船の中、生きた心地のしない航海を三カ月続けようやく入唐し、唐で10年勉強三昧の日々を送る。
そんな中、自分の意に反して、普照は鑑真を連れて日本に帰る機会に恵まれる。
鑑真の高弟の中から誰か日本に渡海してくれないかと鑑真の元を訪ねると、何と鑑真自身が自ら渡海すると言ったのだ。
唐には業行という、普照が唐に来る前から入唐しかれこれ30年滞在している留学僧がいる。
寸暇を惜しんで経典を書きを写すことに人生を捧げていたが、業行が写した膨大な経典もまた日本の仏教には必要不可欠なものであった。
普照はそれらを船に乗せ、鑑真と供に日本へ渡海することとなる。
が実はこれは5回目の渡航。
以前に、鑑真に危険な渡航をさせまいと、弟子が密告して渡海が中止したり、天候が悪化して船の座礁したりと、既に4回の渡海が失敗していた。
次こそはと普照一行は5回目の渡海に挑戦するが、船は風に流され漂流し、海南島の南端、振州の地へ。
台湾を遥かに南西に進んだ、ベトナムに近い場所である。
この先どうすればよいのか。
誰も言葉を発することができず、一種異様な懈怠感(けたいかん)が一行を襲う。
※本で普照は大安寺の僧とされているが、Wikipediaによると興福寺の僧
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